シネマシティが、人間の可聴域外の周波数帯を再生するサブウーファー、VLFCをわざわざレンタルして地獄の黙示録を特別上映するというので、観に行かなければいけない気がしたので観てきた。そもそも自分が地獄の黙示録が初見だったので、映画そのものと、VLFCの感想を別個にしようと思う。
まずVLFCから。うまく使えば効果絶大なんだろうけど、割とデメリットもあるというのが正直なところ。例えば効果がわかりやすいのはキルゴア中佐のナパームのようなシーン。可聴域ではナパームの爆音、可聴域外で空気の振動が襲ってくるので、これはもうわかりやすく迫力が違う。で、デメリット。先日シネマシティで観た「ようこそ映画音響の世界へ」の受け売りになるけど、地獄の黙示録は緊迫したシーンになると、心臓の鼓動のような重低音が入り、緊張感を掻き立てる演出が多い。この重低音にもVLFCが使われているんだけど、音量自体は控えめなのに空気の振動はバリバリ発生しているので、静かなシーンなのに劇場の構造物がビリビリ振動している。爆撃を受けている防空壕の中のシーンなのかと思うぐらいに。これがVLFCの不可避な特性なのか、それとも劇場の機材、構造的に対応しきれなかったのか、音響の調整不足なのはわからないけれど、これははっきりとしたデメリットだと思った。
そして地獄の黙示録の作品そのもの。上映時間3時間越えの作品を久しぶりに見たけど、正直なところキルゴア中佐が出てくるシーン以外は退屈で仕方がなかった。序盤30分ぐらいはめっちゃ面白いのに、それ以降は本当につらい。前半と後半で雰囲気ががらっと変わるベトナム戦争ものといえば、フルメタルジャケットも同様の作品だけど、あちらは最後までちゃんと楽しめたので、決して自分がわかりやすいシーンしか楽しめないというわけではないと思いたい。登場人物が全員綺麗にてんでバラバラの方向を向いて、静かに鬱屈とし続ける様を2時間以上延々と見させられるのは本当につらい。また、つらさの原因の一端が、デジタルリマスターされたが故の高画質にあると個人的には思う。いくら名作と言えども、地獄の黙示録は40年前の作品だ。時代的にどうしても嘘っぽい描写になってしまうシーンがある。カンボジアのジャングルの中にある集落の描写などは、大昔のステレオタイプな未開の蛮族の集落そのものなんだけど、無駄に画質がいいので「これは40年前の古い作品だ」という認識が引っぺがされ、単に考証が雑だったり、ふざけているかのような印象を受けてしまう。こればかりは作品との出会い方が悪かったんだろうけど、フランス人入植者のシーンなんかも、戦時中のジャングルの中であんないい生活送れるわけねぇだろと思ったりもしたので、アメリカ軍以外の考証は割と雑なのでは?と思わなくもない。ともかくキルゴア中佐だけは本当に最高で、あとは「フランシス・コッポラ作品を劇場で見る」という実績を解除したという達成感しかなかった。
総合すると、VLFCはうまく使えばその効果は絶大だが、地獄の黙示録はその効果を万全に活かせる作品ではなかったと思う。それを踏まえて、シネマシティが次にやるべきことは一つ。ガルパンしかない。